ikiune diary 日々の出来事

息畝実/イキウネミノルが、その日見たり感じたことを綴ります。

8月22日

「神よ!とモンターグは考えた。なぜ密告は、夜になってばかり舞いこむのだろう?昼間のうちは、ぜったいといってよいほど舞いこんだことがない!火は、夜間に燃えたほうがきらびやかだからか?そのほうが、眼にはなやかに映るからか?

 戸口までたどりつくと、ビーティの赤ら顔にも、かすかながらか、不安の色があらわれた。一本のマッチを持った老女の手はひきつっている。その周囲には、石油のにおいが立ちこめて……モンターグは、かくしもった書物が、胸の心臓とおなじに、びくっと躍るのを感じた。

『外へ出て!』

 女の声とともに、モンターグのからだは、うしろうしろへとさがり、戸口を出て、ビーティのあとにつづき、玄関のまえのステップを降り、芝生を横切った。そのあたりまで、地獄のカタツムリが匍ったかのように、石油のしたたりがつづいていた。

 正面のポーチまで、老女のすがたをあらわして、かれら男たちを威圧するかのように、平静な眼でながめてやった。そのしずけさは、かれらのへの罪の宣告。老女は、そこに立ったまま、うごくけはいも見せなかった。

 ビーティは指をひねって石油に点火しようとした。が、それよりはやく、モンターグが、あっとさけんだ。

 ポーチの老女は、かれら男たちに侮辱の眼を投げかけたまま、手をのばして、そこの手すりで、台所用のマッチをすった。

 近所の人々は、われさきにと、道路へむかって逃げだした。」

 

華氏451度』を読んでいると否が応でも本のない世界について考えます。

私は図書館や本屋に行くと、多くの本に囲まれることができ、なぜか気分が落ち着きます。本のない世界について想像することは私にとってできません。

 

彼女は私の薦めにしたがって『アンティゴネー』という本を手に取りました。それは岩波文庫の白地に赤のラインが入っている薄い本です。私は彼女と繋がりたくて、その本を手に入れました。

 

けれど、彼女が必要だったのは、実際に演劇で使用する本は、新潮文庫のものでした。オイディプス王と抱き合わせの380円の本です。彫刻かイラストの、男の人の顔が白黒で大写しになったカバーです。

 

私は彼女が買った後を追いかけるようにして新潮文庫の本を購入しました。その本を読めば彼女の幻影に近づけるような気がしたのです。

 

私は彼女と本を通じて繋がれる気がしたのです。私はアンティゴネーのなかに雲雀うめ美を見ます。本のない世界で私は彼女と繋がることができるでしょうか?

 

私はその老女の気持ちがよくわかります。アンティゴネーが私から奪われ、焼き払われることがあるとすれば、私は、一体どのように生きていけばよいのでしょうか?私とうめ美を運命的に結んだその一冊を奪われたら。