8月27日
「ああ、母の臥床の恐ろしさ!自分の生んだ夫の傍に母が添い寝する浅ましさ! そういう二人を親として、この惨めな私が生まれたのだ! その私が今、こうして呪われたまま、夫も無しに、後の世を両親とともに過すために連れさられようとしている」
よくよく考えてみたらイオカステは2人の悲劇の主人公の母親だ。
母親となることなくこの世から死者の国へと旅だっていったアンティゴネーと、腹を痛めて生んだ子供がともに悲劇へと巻き込まれる不運な母親、イオカステ。
二人の女性の悲劇が連なっている。
オイディプスはアンティゴネ―の父親でありながら異父兄妹でもある。その家族の有様は「曖昧模糊」としている。
そうした曖昧模糊の中で、彼女は母親という自からが背負った宿命を歎いて死んでいったのかもしれない。
8月28日
海について考える。
私が生まれ育った所のすぐそばには海があります。それはどんよりとして、静かに波立っている。私の両親が幼いころには周りの大人達から一人でその海には近づいたらいけないと言われていたらしい。けれど、私がいたころにはもうそのような事をいう人もなく、よく一人で遊びました。
海のことを考えながらアンティゴネーについて書いている。もちろん、雲雀うめ美のことも。
雲雀うめ美があのもの寂しい海岸に立っている。なぜだろう。すごく近くにいるのに決して近寄れない。どこまで歩いても彼女の姿は一定のままだ。彼女は何か叫んでいる。彼女の声が聞きたい。じっと耳を澄ます。
でも風の音によってかき消されてしまう。私は一生、彼女の声を聞くことはできないのだろうか。彼女の微かな声を聞き取ることから物語を始めようと思う。